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山本尚利氏コラムから

ベンチャー革命2006年10月1日

                           山本尚利

タイトル: リチウム電池リコール:ソニーの危機



1.21世紀ソニーの経営戦略の流れ

 筆者は、過去にソニーに関して何度か取り上げてきました。(注1~注5)

過去に公表されているソニー・トピックスから、21世紀におけるソニーの経営戦略の流れをお

よそ把握することができます。企業の経営戦略情報の公表部分ではなく、裏に秘められる真

意あるいは狙いは、一般的にトップシークレットとなっていますので、公表情報から推測す

るしかありません。

 拙稿の過去記事から、21世紀ソニーの経営戦略の流れは容易に推測できます。90年代、多

くの日本IT企業が構造不況に落ち込む中、ソニーのみは、ダントツの成長を遂げています。

1990年度のソニーの売上は3.7兆円でしたが、2000年度の売上は7.3兆円に達しています。こ

の数字は、10年でソニーの経営規模が、2倍に成長したことを物語っています。90年代の逆境

日本において、経営規模を倍増させたソニーの経営戦略は大成功したと考えてよいでしょ

う。

 ところが、2000年3月、ネットバブル崩壊を端緒に、今世紀になってソニーの奇跡の成長が

停滞、売上規模は7兆円台でとどまっています。1999年、ネットバブル最盛期に3万円台をつ

けたソニー株価は、2003年4月のソニーショックで3000円割れを起こしました。最近は、映画

ダヴィンチコードのヒットなどで、一時6000円台まで戻しましたが、今回のソニー製リチウ

ムイオン電池リコール問題で、再び4000円台に下落してしまいました。90年代あれだけ輝い

たソニーがなぜ、今世紀になって、突如、惨憺たる苦境に追い込まれたのかについての筆者

の見解はすでに発表しています。(注6)

 筆者の見解は、一言、『ソニー経営者が逆境シナリオ到来に向けて、リスクマネジメント

が不十分であった。』というものです。

 ソニーの経営戦略にとっての順境シナリオとは、反戦・平和志向の世界市場シナリオで

す。一方、逆境シナリオとは、軍事・エネルギー覇権の寡頭勢力が牛耳る世界市場シナリオで

す。ネットバブル崩壊後のソニーの経営者は、寡頭勢力による逆境シナリオの計画的誘導が

読めなかったと筆者は分析しています。もうひとつ、当時のソニー経営者の経営戦略を、ソ

ニーの日本人幹部、特に、技術陣幹部が理解できなかった。また、ソニー経営者による自社

の日本人社員に対する説得努力が不十分であった、と筆者は読んでいます。



2.リチウム電池リコール事件の本質

 2006年8月、ソニーにまたもや、災難が降りかかりました。ソニー製リチウムイオン電池の

発火トラブルです。(注7)

 パソコン(PC)用ソニー製リチウムイオン電池の回収はアップル、デルのPCにとどまら

ず、レノボや東芝のPCにまで拡がる気配です。このまま行くと、全世界で回収1千万個に達

する可能性がでています。その費用は500億円を軽く突破しそうです。ソニー映画、ダヴィン

チコード(注5)のヒットによる収益がこのPC電池回収事件で吹き飛ぶ計算となります。

 筆者の懸念したソニーのリスクマネジメント問題が再度、噴出した感が否めません。グロ

ーバル競争社会において、ソニーの経営者にとって、映画の製作・配給ビジネスと電池の製

造・販売ビジネスを両立させることは至難です。まさに『二兎追うものは、一兎も得ず』の格

言が当てはまります。このまま行くと、ソニーは1986年にGEに買収された米国家電メーカ

ー、RCAの二の舞を踏む危険があります。

 ソニーは、ウォルト・ディズニーのようなマルチメディア・エンターテインメント企業に特

化するのか、松下電器やキヤノンのように、ものづくり専業企業に特化するのかの岐路に立

たされています。筆者個人は、経験産業論者(注8)ですから、前者、マルチメディア・エン

ターテインメントの事業戦略を支持します。ソニーが、MGM買収(注1)で功績のあったハワー

ド・ストリンガー氏をCEOに据えた時点で、ソニーは後者の『ものづくり』を思い切って棄て

るのが経営戦略的には正解なのではないかと筆者は信じます。

 ネットバブル崩壊後のソニーの経営戦略の迷走が、ソニー技術陣のモラール低下を招いた

ことは十分想像できます。(注3) その結果、ソニー製品の品質低下が起こり、今回のリチ

ウムイオン電池の発火トラブルを招いたと思われます。この事件が不幸にも、ソニーブラン

ドを傷つけたら、かつて日本一の乳製品ブランドであった雪印乳業(注9)と同じ運命(ブラン

ド消滅)が待っています。ブランド企業の最大の敵は、競合企業ではなく、品質トラブルであ

ることは論を待ちません。



3.ソニー製電池発火事件にみる疑問

 リチウムイオン電池が発火しやすいことは既知の事実で、製品設計上、あるいは製品の品

質管理上の最重要のマネジメント・ポイントです。ところで戦後、量産品の品質管理には統

計的品質管理思想が導入されています。その中に、アルファの誤り(真の合格品を不合格、

廃棄にする誤り)とベータの誤り(真の不合格品を合格、出荷する誤り)という考え方があ

ります。どちらの誤りにも、損害(コスト)が発生します。今回のソニー電池事件は、後者

のベータの誤りの事例です。

 この場合、市場に一定の不良品が出回ります。それを承知の上で、ベータの誤りをゼロに

する全数検査(高コスト)を止めて、ベータの誤りを予め見込む抜き取り検査(低コストのサン

プル検査)で品質管理を行います。そして、抜き取り検査コストと、ベータの誤りによって市

場に出回った不良品の回収、修理、弁償コストの合計が、全数検査コストより低くなるよう

に統計的品質管理設計を行います。これは、リスク・イコール・コストという考え方です。

この考えに従えば、量産品であるソニー製電池が、市場にて稀に発火事故を起こすことは品

質管理上、織り込み済みの話です。ソニーの電池のみならず、ほとんどの工業的量産品には

統計的品質管理(抜き取り検査)が適用されます。たとえば、米国の牛肉(工業的量産品)はベ

ータの誤りを認める品質管理(抜き取り検査)で出荷されます。だからこそ米国産牛肉は国産

牛肉より大幅に安い。しかしロープライス・イコール・ハイリスクなのです。ブッシュ大統領

は、テキサスに私有する牧場の牛しか食べないと言われていますが、このように米国国民は

一般的に、リスク・イコール・コストの概念をよく理解しています。ところが、日本の官僚や

日本国民はこの考え方(リスクマネジメントの基本)が理解できないことが多いわけです。こ

のことが、狂牛病BSE問題にからんで、米国産牛肉の輸入をめぐって日米政府間で摩擦が起こ

る原因となっています。

 さて、ソニー製電池リコール事件における筆者の疑問とは、上記で解説したローコスト・イ

コール・ハイリスクのコンセプトに精通しているはずのアップル、デルという米国企業から、

全面回収リコールに持ち込まれた点にあります。一般的には、ベータの誤りによって出荷さ

れた不良品の交換のみを行えば済んだはずですが・・・。なぜ、全面回収(ソニーにとって

合格品までも回収することになる)に発展したか。まず考えられる原因(その1)は、航空

機テロ対策が厳しくなっている現在、ノートパソコンは、航空機の機内持ち込みが可能であ

り、その二次電池発火事故は航空機の安全上の大問題に発展するという特殊事情がソニーに

とって非常に禍いしています。つまり、PC用リチウムイオン電池に限って、ベータの誤りに

よる損失コストが無限大になってしまったのです。



4.油断できないスティーブあるいはビル(あるいはイー・ゴンヒ)のソニー買収の野望

 もうひとつ考えられる原因(その2)は、ソニーがアップルのスティーブ・ジョブズとマイ

クロソフトのビル・ゲイツに翻弄されている点(注5)に潜むのではないでしょうか。

 要するに、マルチメディア・エンターテインメント事業ドメインで覇権競争しているスティ

ーブとビルは両者ともに、ソニーあるいはウォルト・ディズニーを取り込みたいはずです。

スティーブはすでに、片方の獲物、ウォルト・ディズニーの筆頭株主となっています。彼ら

にとって、もうひとつの獲物、ソニーを買収するには、ソニーの株価をいったん下げるのが

お買い得となります。

 ソニーというブランドを消し去って、ソニーの知的資産やリソースのみをできるだけ安く

獲得する。その意味で、今回のソニー製電池事件は、ソニーブランドを傷つけるが、ソニー

の知的資産やリソースは傷つきません。今回の電池事件が全面回収リコールに拡大するほ

ど、ソニーを買いたい野心家にとってはもっとも好ましい買収条件が整うわけです。

 もちろん、ソニーは買収された後、解体される可能性があります。もし、買収されれば、

コンシューマ・エレクトロニクス事業は、デルあるいはサムスンに売却されるでしょう。

 ちなみに、サムスンのイー・ゴンヒ会長がソニーに対してどのような野望を持っているの

かも決して無視できません。

 いずれにしても、ソニーのかつてのモデル企業、RCAが1986年にGEに買収された当時の状況

を連想すればわかりやすいといえます。ソニーがRCAのように消滅しないためにはどうする

か、これは単にソニーの日本人社員のみならず、日本国民の問題でもあります。なぜなら、

ソニーは日本発グローバル企業の先行モデルだからです。



注1:ベンチャー革命No.119『MGM買収:ソニーの危険な賭け』2004年9月25日

http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr119.htm


注2:ベンチャー革命No.144『日本よさらば:ソニーの旅立ち』2005年1月22日

http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr144.htm


注3:ベンチャー革命No.165『米国大学は研究に不向き?』2005年6月1日

http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr165.htm


注4:ベンチャー革命No.178『ソニーで占う「セミ米国化」』2005年9月24日

http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr178.htm


注5:ベンチャー革命No.194『ソニー映画「ダヴィンチコード」のインパクト』2006年5月21日

http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr194.htm


注6:山本尚利『シナリオ発想によるリスクマネジメント・・・逆境シナリオが描けなかった

ソニーの躓き』月刊ビジネスリスクマネジメント2005年12月号、ビジネスリスク経営研究所

http://www.dream-lab.co.jp/brm/backno_05.html


注7:日本経済新聞2006年10月1日

注8:寺本義也・山本尚利『MOTアドバンスト:新事業戦略』JMAM、2004年、p35

注9:テックベンチャーNo.63『品質大国日本』2000年9月13日

http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/ATT00013.htm




山本尚利(ヤマモトヒサトシ)

hisa_yamamoto@mug.biglobe.ne.jp


http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/melma.htm


http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/magazine-menus.htm


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