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山本尚利氏コラムから

ベンチャー革命2006年12月24日

                           山本尚利

タイトル: 日本型年功序列の再考



1.若者はなぜ3年で会社を辞めるのか

 城繁幸[2006]『若者はなぜ3年で辞めるのか:年功序列が奪う日本の未来』光文社が大ヒッ

トしています(注4)。本著では、日本の年功序列についてかなり本質的問題提起がなされ

ています。若者はなぜ3年で会社を辞めるか。その答えは、現代の若者は、昭和的価値観で経

営される日本企業で働くことに耐えられないからである、というものです。この前提には、

80%以上の日本企業が、年功序列を止めて成果主義を導入している(注1)ことになっている

が、ほとんどが中途半端な成果主義となっており、昭和時代の年功序列の基本構造は本質的

に変化していないという著者の考えがあります。企業の人事制度は、その企業が存在する社

会の構造と深くかかわっています。長年かけて構築されている社会構造を一朝一夕で変える

ことは不可能です。その意味で、日本で経営される日本企業が、表面的に欧米型の経営シス

テムを導入しても、確かにその経営システムの本質は容易に変わらないでしょう。



2.年功序列と成果主義はどちらがよいか

 筆者は、1970年に典型的な日本企業、石川島播磨重工に新卒入社、1986年に転職して米国

シンクタンク、SRIインターナショナルに所属、そして2003年以降、典型的な日本型大学、早

稲田大学に所属して現在に至っています。つまり、筆者は日本型組織と米国型組織の両方を

経験しています。これまでの日本では、筆者のような両生類(アンフィビアン)は稀少でし

た。この両経験から、城氏の主張は痛いほどわかります。ここで議論を単純化するために、

日本型組織の代表的システムを、年功序列とし、米国型組織の代表的システムを成果主義と

みなせば、年功序列も成果主義も一長一短があり、絶対的にどちらが良いとは言い切れませ

ん(注3)。

 本件に関して、筆者はすでに持論を確立しています。端的にいえば、日本企業、とりわけ

グローバル競争を避けられない日本企業は、二本立て人事システムを導入すべきである、と

いうものです。すなわち、一般社員には年功序列型人事システムを適用し、ごく一部のプロ

フェッショナル社員(経営陣、幹部候補生、営業責任者など)のみに限定的に成果主義人事

システムを適用すべきである、というものです。この持論は、筆者の16年半に及ぶSRIでの経

験から得られたものです。なお、プロ社員は、職務記述書で明確に定義され、自己責任を伴

うことが大前提です。なお、MBA(経営学修士号)を発行するビジネススクールのミッション

とは、明確にこのプロ社員の資格を雇用者に提供することです。米国ではMBAと成果主義がセ

ットとなっています(注2)。ところが、日本では実に不明瞭となっています。なぜなら、

城氏の指摘どおり、成果主義を導入したつもりの多くの日本企業の成果主義が、確かに中途

半端であるからです。さらに言えば、成果主義を導入したつもりの日本企業の人事部の位置

づけは従来のままです。この点は、成果主義の米国企業の人事部の位置づけとは大きく異な

ります。現在の米国企業の人事部に人事権限はなく、単に総務・管理部門のひとつにすぎま

せん。これらの一貫性のないちぐはぐさは、丸山真男の言葉を借りれば、『近代日本(戦後

日本)は、近代(西欧型民主主義社会)と前近代(封建社会)が逆説的に結合する倒錯社会

である』ということに尽きるわけです(注6)。まさに言いえて妙です。城氏の指摘は、す

べてこの言葉に凝縮されます。



3.成果主義を導入しても年功序列の亡霊が消えないのはなぜか

 上記、城氏の脳裏には、東大体制批判(注7)、日本型組織批判、成果主義批判、そして年

功序列批判へと思考変遷がみられますが、この批判思考パターンは、城氏の卒業した東大法

学部の大先輩、丸山真男(歴史的人物)によって戦後まもなく、すでに完璧に確立された批

判思考パターンであると筆者は思います(注6)。城氏は、丸山真男を研究することなく、己

の体験に基づいて、丸山真男とまったく独立に、若くしてそのレベルに達したと筆者は評価

します。ところで城氏は日本型年功序列を、昭和的価値観と呼んでいますが、とんでもな

い。それどころか、年功序列は封建時代の日本の古層に属するものです。そう簡単に壊れる

ものではありません(注8)。

 さて日英の両生類で、国際経済学者であった森嶋通夫氏は、日本人は、戦後導入された西

欧的価値観がエートスになっていない。すなわち、戦後の日本人の遺伝子に西欧民主主義的

価値観がまだ十分、宿っていないと主張しています(注9)。ほんものの成果主義が日本に

定着するには、日本人の遺伝子に西欧民主主義的価値観がエートスとして宿ることが条件と

なると筆者は思います。それには世代を超えた非常に長い時間がかかるわけです。その意味

で、日本の年功序列的価値観を完全に払拭するにはまだまだ時間がかかります。若い城氏が

いらだつのも無理ないでしょう。



4.西欧型民主主義と格差の問題

 筆者と同じ、日米両生類の小林由美氏の著作『超・格差社会:アメリカの真実』2006年、

日経BPと、上記、城氏の著作を読み比べると実におもしろいです。表向き民主主義国家を標

榜する米国社会の格差は、年功序列を古層にもつ日本社会の格差とはくらべものにならない

くらい大きいことがわかります。日本のグローバル化の進展とともに、世代交代によって日

本人の遺伝子に西欧民主主義的価値観が宿ったあかつきにはおそらく、年功序列が完全に払

拭されるでしょう。ところが、成果主義の浸透した現在の米国社会をみればわかるように、

城氏の期待に反して、未来の日本にはもっと深刻な格差が生まれることになります。

 これはいったい何を意味するのでしょうか。筆者の見方では、年功序列も成果主義も人間

社会の本質を変えることはできないということです。日本の年功序列は端的いえば、入り口

規制です。この世の天国、竜宮城に入るのに大変な努力が必要ですが、いったん入ってしま

えば、既得権益で守られる社会システム(ぬるま湯社会)です。一方、米国の成果主義は、

出口規制です。竜宮城に入るチャンスは民主主義にのっとって、比較的、機会均等ですが、

竜宮城の中で、大変な努力を強いられます。そして厳しい競争に勝ち残ったものだけが、独

占的に権益を得られます。結果的には、入り口規制の年功序列は比較的小さい格差で収ま

り、出口規制の成果主義は、比較的大きな格差をもたらす傾向があります。いずれにして

も、両者とも大なり小なり格差を生むわけです。ただし、年功序列のほうは、組織が右肩上

がりの成長を続ける限り、格差がそれほど表面化しないにすぎません。若い城氏からみて、

年功序列が日本社会のガンのように写るのは、日本社会の産業成長が止まったからです。年

功序列そのものが悪いとは必ずしも言えないのです。それどころか、年功序列はかつて、戦

後日本の奇跡の高度成長の原動力ですらあったわけです。この意味で、日本から年功序列的

古層(封建性)が取り除かれても、日本に明るい未来が開けるとは限らないでしょう。ま

た、日本の格差問題も解決しないと思います。ところで、現在の日本には一方で、城氏の年

功序列批判に対峙するかたちで、成果主義批判あるいは、米国型の競争原理至上主義信奉者

への批判も依然、根強いわけです。しかしながら、さりとて、日本が今後とも年功序列型古

層を堅持するのは、何の問題解決にもならないでしょう(注5)。



5.ホリエモン型若者の抑圧に向けた策動

 2006年12月23日のマスコミ報道で、ライブドアの堀江貴文氏(ホリエモン)が粉飾決算の

罪で検察から懲役4年の求刑が出されていますが、国家権力のこの動きは、年功序列型古層を

堅持しようとする既得権益層による抑圧と捉えることができます。ホリエモンは、一時的

に、城氏の指摘する、日本の若者の閉塞感を打破してくれそうな時代の寵児にみえたのは事

実です(注10)。小泉政権を牛耳っていたジャパンハンドラーは、2005年の9.11郵政民営化

選挙で、ホリエモンを巧みに利用し、日本の若者の閉塞感エネルギーをまんまと、小泉支持

に誘導することに成功しました。当時、小泉支持に回った欲求不満の若者(B級と揶揄される

層)は、まんまとだまされたと気づくべきです。そのおかげで、若者の敵、既得権益層は

今、やりたい放題となってしまいました。さて筆者が東大生であった1960年代末、全国規模

で全共闘運動が起きましたが、今、振り返ってみれば、全共闘運動とは、丸山真男の指摘し

た封建的古層のもたらす閉塞感エネルギーの爆発現象であり、昨年のホリエモン・ブームと根

は同じような気がします。既得権益層を再生産する東大体制を破壊しようとした全共闘運動

は結局、東大体制を逆に強化する結果をもたらしたのです(注7)。今、ホリエモンを葬り去ろ

うとする既得権益層とは、40年近く前の全共闘世代であることは歴史の皮肉です。『今の若

いものは・・・』というせりふは、人類始まって以来、繰り返されているといいます。その意味

で、城氏やホリエモンのような生きの良い若者(跳ね上がり)は、人類始まって以来、繰り返

し出現しているわけです。40年後の城氏は、ホリエモンの2代目を抑圧する側に回っているか

もしれません(笑)。



注1:ベンチャー革命No.155「成果主義の急速な普及」2005年3月20日

http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr155.htm


注2:ベンチャー革命No.148「成果主義とMBA教育システムの関係」2005年2月11日

http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr148.htm


注3:ベンチャー革命No.137「MOTと成果主義」2005年1月3日

http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr137.htm


注4:ベンチャー革命No.100「悪者にされた成果主義:富士通」2004年8月7日

http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr100.htm


注5:ベンチャー革命No.60「虚妄の成果主義」2004年3月14日

http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr060.htm


注6:ベンチャー革命No.033「丸山真男の遺言」2003年1月2日

http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr033.htm


注7:ベンチャー革命No.031「東大体制の原罪」2002年12月14日

http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr031.htm


注8:ベンチャー革命No.032「1940年体制からの決別」2002年12月22日

http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr032.htm


注9:ベンチャー革命No.096「日本の没落:森嶋道夫の遺言」2004年7月17日

http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr096.htm


注10:ベンチャー革命No.151「ホリエモン:丸山真男の遺言執行人」2004年7月17日

http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr151.htm




山本尚利(ヤマモトヒサトシ)

hisa_yamamoto@mug.biglobe.ne.jp


http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/melma.htm


http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/magazine-menus.htm


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