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山本尚利氏コラムから

ベンチャー革命2007年1月24日

                           山本尚利

タイトル: ファイザー日本人社員の悲哀



1.絶好調医薬ブランド、ファイザーとは

 2007年1月24日朝日新聞に、世界一の医薬ブランドメーカー、ファイザーの人員削減の記事

が掲載されました。ファイザーの日本法人(ファイザー・ジャパン)は、中央研究所閉鎖など

で最大1200人の人員削減を米本社から要求されているとのこと。現在、ファイザー・ジャパン

には6000人の日本人社員が在籍しているそうです。外資系医薬メーカーの中では、ファイザ

ーの日本市場売上金額(4000億円、2005年度)はトップです。2006年度もファイザー・ジャパン

は増収増益で、その業績は絶好調であったそうです。なるほど、それを裏付けるように、筆

者も現在、ファイザーの高脂血症治療薬、リピトールと高血圧治療薬、ノルバスクを毎日、

飲んでファイザー・ジャパンにせっせと貢献しています(笑)。筆者は40歳代の前半、要治療の

高脂血症と診断され、当初、三共(現在の第一三共)が世界で初めて開発した特効薬メバロ

チンを常用していました。しかしながら、特効薬メバロチンは服用中には確かに効果があり

ますが、服用を止めると、再び、コレストロール値が上昇します。つまり、高脂血医薬は、

別に、高脂血症を治療する根治治療医薬ではなく、単に、コレストロール値の上昇を抑制す

る対症療法的医薬であると知りました。つまり、高脂血医薬はいったん飲み始めると、一

生、飲み続けなければならない薬であるとわかり、1年くらいで服用を中止しました。その

後、筆者のコレステロール値は再び、上昇し続け、50歳代後半、一生飲み続けることを覚悟

の上、再び、高脂血薬の服用を再開しました。それが、ファイザーの世界的大ヒット医薬の

リピトールです。ファイザーの好業績の秘訣は、筆者のようなファイザー製医薬常用者が世

界中に存在するからです。特に、栄養状態のよい先進国ほど高脂血症患者が多い。それだけ

にファイザーは笑いが止まらない。さらに成人病医薬は長期服用となるので、副作用が非常

に心配です。そこで、日本の医療関係者はどうしても、世界中で常用実績の高い安全な医薬

を処方しがちとなります。世界一の医薬メーカー、ファイザーが強い理由もここにありま

す。医家向け処方医薬の銘柄は、その医薬の服用者(患者)ではなく、その医薬を処方する医

者に銘柄決定権があることがほとんどです。その意味で、日本の医療関係者の間でダントツ

のブランドを確立したファイザーが、ファイザー・ジャパンのさらなる営業効率化を計画する

のは無理からぬところがあります。



2.絶好調ファイザーのリストラ、なぜ?

 さて日本市場でダントツの高業績を誇るファイザー・ジャパンがなぜ、上記のように大規模

リストラをしなければならないのでしょうか。本件に関して、筆者は、日本一の医薬メーカ

ー、武田薬品工業と比較しながら、世界一の医薬メーカー、ファイザーについて、2007年初

頭、すでに持論を発表しています(注1)。それによれば、ファイザーは2005年4月から世界規

模で人員削減を伴う中長期リストラ戦略を開始しており、2008年までに、全世界で総額40億

ドルのコスト削減を実現する計画とのこと。上記、ファイザー・ジャパンの1200人の人員削減

計画も、このリストラ戦略の一環です。筆者の分析によれば、好業績ファイザーは近未来、

特許切れのヒット商品(リピトール含む)をいくつか抱えており、このまま推移すると、業績

悪化が避けられない。そこで、現在の好業績の間に、思い切ったリストラ戦略を打ち出した

ものでしょう。この経営戦略は、欧米企業では定石となっています。経営者の立場から、業

績が悪化してから、リストラ戦略を打ち出しても、もはや手遅れです。さすが、世界一の医

薬メーカーです。たとえば、胃がんを例にとると、自覚症状のない時期に手術すれば、胃が

んは完治しますが、自覚症状が出てから手術しても手遅れとなり易いといわれます。企業経

営もまったく同じです。将来の経営悪化が、早期に診断されたら、経営状態の良いときに前

倒しでリストラを断行するのが中長期的経営の視点から正解です。その意味でファイザーの

経営者の思い切った意思決定力はすばらしい。優柔不断になりがちな日本企業の経営者にと

ってお手本です。市場関係者からファイザーの経営者は高く評価されるはずです。ここ1年の

ファイザーのNYSE株価は25~26ドル近辺で比較的安定しています。一般的に、株主の発言力の

強い欧米企業は、短期的視点で経営されるといわれますが、ファイザーの場合、2005年度は

好業績にもかかわらず、営業利益をM&A投資やリストラ費用に振り向けて、財務上の営業利益

率を前年度比で下落させています。この意味でファイザーの場合、まさに中長期的視点で経

営されていると思います。この短期志向でないファイザーの経営戦略はおそらく同社の有力

株主にも受け入れられているのでしょう。



3.リストラに納得できない絶好調ファイザー・ジャパンの日本人社員

 ところで日本社会の常識では、絶好調の企業が人員削減するのはまったく理解できませ

ん。ファイザー・ジャパンの日本人社員とて同じです。世界一の医薬ブランド、ファイザーで

働く日本人社員はさぞかし、誇りに思っていたことでしょう。にもかかわらず、ファイザー

本社は2005年末、ファイザー・ジャパンに対し、冷酷にも300人の人員削減断行を通告してお

り、この後、ファイザー・ジャパンでは深刻な労使紛争が勃発しています。2006年3月、当時

のファイザー・ジャパンのソーレン・セリンダー社長など4人の幹部が更迭され、生え抜きの

岩崎博充氏が社長に就任して事態の収拾を図ることになったそうです(注2)。ところが、意

外というべきか、案の定というべきか、上記、朝日新聞報道のように、1年弱後の2007年1月

現在、日本法人に対する人員削減要求は300人どころか1200人と4倍に跳ね上がっています。

イラク戦略に失敗したといわれるブッシュ大統領が、2007年1月発表のイラク新戦略で、米軍

撤退どころか、2万人超の兵員増派を発表した(注3)のと酷似しています。さらに、あろうこ

とか、ホワイトカラー集団の塊であるファイザー・ジャパンの中央研究所(愛知県、400人規

模)を閉鎖すると通告したそうです。今、巷間で話題となっているホワイトカラー・エクゼン

プション(残業免除)どころではありません。まさにホワイトカラー・エクゼキューション(処

刑)です。滅私奉公的価値観の残存する日本では、想像を絶するような悪魔の宣告に等しい。

 ただ、このリストラ策は、日本法人のみを狙い撃ちしたものではなく、グローバル企業フ

ァイザーの全世界拠点を対象としています。このようにグローバル外資系企業では、日本法

人だけが特別扱いされることはないわけです。好業績下での人員削減は、日本社会の習慣に

合わないという反論はもはや通用しません。欧米社会あるいは、日本以外のアジア各国で

は、ファイザーのような企業リストラは日常茶飯事ですから、人材市場は極めて流動化して

います。日本以外では、ファイザーの研究員の市場価値が高ければ、研究所が閉鎖されれ

ば、その研究員は、競合企業からすぐさまヘッドハンティングされます。逆に、グローバル

企業の研究員は、いつでも競合他社から引き抜かれるほどの実力をつけておきたいから、現

在、所属する企業で全力を尽くすわけです。さて、ファイザー本社の経営者は、株主を含む

ステークホルダーに向けて、マニフェストとして2008年までに40億ドルのコスト削減を公約

しています。この公約が期限までに実行できなければ、経営者自身が責任を取らされるし(解

任)、公約を果たせば、40億ドルの何パーセントかの報酬が得られるわけです。ファイザー経

営者にとっては、自分がクビになるか、それとも一部の社員をクビにするかの瀬戸際に立た

されています。この意味で好業績ファイザーの日本法人リストラ計画は、われわれ日本人に

対し、グローバル競争社会の冷酷な本質を突きつけています。

 今日のグローバル社会では、いくら世界的ブランド企業であっても、雇われ社員はいつ何

時、リストラされるか知れません。ファイザーは決して例外企業ではありません。欧米やア

ジアで、ベンチャー起業する人があとを絶たない理由がここにあります。



注1:山本尚利 [2007]『技術経営ランキング500社、上位企業の業種別海外比較分析』早稲

田ビジネススクール・レビュー、第5号(2007年1月号)60ページ、日経BP刊行

注2:日経BPネット2006年3月16日『ファイザー内紛で社長解任、労使対立解消へ生え抜き日

本人を起用』

http://www.nikkeibp.co.jp/archives/424/424400.html


注3:ベンチャー革命No.218『米・イラン戦争:日本のみ石油危機到来』2007年1月17日

http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr218.htm




山本尚利(ヤマモトヒサトシ)

hisa_yamamoto@mug.biglobe.ne.jp


http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/melma.htm


http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/magazine-menus.htm

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