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山本尚利氏コラムから

ベンチャー革命2007年8月22日

                           山本尚利

タイトル: イノベーションに向いた組織構造:日米の違い



1.イノベーション予備軍の不足、深刻

 筆者は技術経営(MOT)を専門としていますが、2007年8月15日付け日経新聞にMOT関係者にとって衝撃的な記事が載りました。それは国内の大学工学部志願者が、バブル崩壊直後の90年代初頭、60万人のオーダーであったものが、2007年には26万8000人に急減しているという記事です。筆者は、1970年に東京大学工学部を卒業していますから、大学工学部卒業生の一人としても、この統計は大変ショッキングです。総務省統計局データによれば、1995年の第二次産業(製造業、鉱業、建設業)の就業者数は2125万人(総人口1億2557万人中6.9%)ですが、2005年には1713万人(総人口1億2777万人中13.4%)と10年間の第二次産業就業者減少率は19.4%です。一方、工学部志願者数は1995年の57万5000人から2005年の33万5000人と、10年間の工学部志願者減少率は41.7%です。この数字から大学工学部志願者の減少率は、その主たる就職先である第二次産業の就業者の減少率の2倍以上となっていることがわかります。つまり、現代日本の18歳前後の大学進学希望者は、明確に、未来日本の第二次産業(工業技術系産業)の衰退を予見しているといえます。この事実は日本のイノベーション政策にとって実に深刻です。



2.米国で起きたことは、日本でも必ず起きる

 米国と比較しても、80年代から90年代にかけて米国で起きた製造業(第二次産業の担い手)の衰退が、90年代初頭から、日本でも起き始めたことを意味しています。80年代、90年代の米国は、技術系人材の不足を欧州やアジア留学生で補い、なんとか技術系産業を維持し、現在、IT、バイオテクノロジー、軍事、航空宇宙などハイテク領域では世界最強の競争力を維持しています。今日の米国のハイテク競争力を縁の下で支えてきたのは、実は高学歴移民や留学生であったのです。その証拠に米国における工学系博士号取得者の外国人比率が5割を超えているといわれています。ただし、ハイテクをマネジメントしているのは、主として米国人エリートです。 一方、日本では、米国に比べて日本人の大学工学部志願者の減少を留学生が補っているとは到底、言えません。日本は米国と違って、天然資源もなく、農産物生産のための広大な農地も不足しているため、外貨獲得に、工業貿易に依存せざるを得ません。 しかも第二次産業就業者の減少を不可避とした上で、工業技術の国際競争力を維持するには、資源豊かな米国以上に、日本は高付加価値の技術製品・サービスに特化し、外貨獲得していくしかありません。さもなければ、これまで蓄えた金融資産を活用して利殖するかです。しかしながら、寡占化された国際金融資本が世界の金融市場を支配している現状をかんがみると、日本人が国際金融市場の大もうけするのは、至難の業であるといえます。



3.量より質のイノベーション人材が不可欠

 上記の現実を踏まえると、今後、日本が国際的な経済競争力を維持していくには、非常に質の高いイノベーション人材を、できるだけ多く育成し、高付加価値の技術製品・サービスの国際競争力を強化することが不可避で。この視点から特筆すべきことは、国家イノベーション政策で求められるのは、大学工学部志願者の減少を食い止めることでは必ずしもなく、少数精鋭でもよいから、質の高い人材を育成することであるということです。2003年以

降に日本で生まれた技術経営(MOT)専門職大学院は、このような問題意識に沿って生まれたものといえます。

 ここで質の高い人材とは、大きく二種類に分かれます。ひとつは、イノベーションを起こす才能ある人材(タレント人材)です。もうひとつはそのタレント人材を発掘して、育成し、ビジネス界で活躍させ、高付加価値のビジネスを成功に導くマネジメント人材(MOT人材)です。上記、MOT専門職大学院は、もっぱら後者のMOT人材の教育を行う大学院と位置づけられます。 それでは、MOT専門職大学院を設置するだけで質の高いイノベーション人材が日本で生まれるでしょうか。とんでもありません。イノベーションにはタレント人材の発掘と育成が不可欠ですが、この課題解決はそれほど容易ではありません。 国家の国際競争力を維持する源泉、イノベーション人材の発掘、育成強化は先進国の最優先国家戦略となっており、特に西欧先進国の各国政府は日夜、この課題に真剣に取り組んでいます。



4.先進国に必須のイノベーション人材の発掘、育成を怠ってきた日本

 それにくらべて日本はどうでしょうか。工業化社会の大量生産時代に必要な技術系人材(研究開発人材を含む)に関して、日本は産官学をあげて、大量に育成してきました。その証拠に、スイスビジネススクールIMDの世界競争力ランキングによれば、人口当たりの研究開発者数や研究開発支出は依然として、日本は米国と比肩し世界トップレベルにあります。にもかかわらず、日本のイノベーション政策の国際競争力は後れているといわざるを得ません。それがいかに後れているかはOECDのScience, Technology and Industry Scoreboardの国際統計から窺えます(注1)。具体的には、日本は対GDP比で研究開発費支出は大きいものの、イノベーションに寄与するソフトウエア開発、高等教育投資と合算すると他の先進国に大きく見劣りします。また、民間研究開発投資のうち、ベンチャーを含む中小企業の研究開発投資比率やベンチャーキャピタル投資(リスクマネー)の比率は極端に低位です。民間研究開発投資が、大企業主導で、工業量産品の研究開発に偏っているということです。イノベ

ーションに必要なハイリスクの研究開発投資がまったく不十分なのです。これでは、イノベーションに不可欠のタレント人材(才能ある人材)が発掘されないし、育成強化もされないわけです。いくら専門職大学院でMOT人材を育成しても、肝心のタレント人材が不足していては、日本のイノベーション成果に結びつかないことになります。



5.日本で最優秀とされる人材の価値とは

 ところで、現在の日本では、優秀な人材の卵をどのように選抜しているでしょうか。安倍内閣の目玉プロジェクト、イノベーション25(注2)の座長、黒川清(東大医学部名誉教授)氏(注3)によれば、その関門は、実は国立大学医学部入試にあるとのこと。確かに日本の高校生で、もっとも成績のよい高校生はもっぱら、東大理科!)類を筆頭とする国立大学医学部、または慶応大学医学部を受験するというのは大学受験関係者の間で常識です。ちなみに筆者も実は40数年前、東大理科3類に合格する自信があったなら、理3を受けていたでしょう。つまり、40年以上前から、確かに、この傾向はあったと思います。 その結果、日本のイノベーションの推進力の中心に位置するはずの日本の製造業は、日本でもっとも偏差値の高い若手人材を獲得できていない状態が戦後、ずっと続いていることになります。ところが日本製造業はその現状を打破しようとする意思がまったく感じられません。現状打破のためには、日本の最優秀人材がなぜ、工学部ではなく医学部に殺到するかの分析が必要ですが、残念ながら日本企業の経営者からそのような問題提起がなされたのを聞いたことがありません。もちろん大学受験の成績とイノベーション能力が比例するかどうかは証明されていませんが、さりとて日本の製造業が、独自のイノベーション人材選抜基準をもっているとも思えません。多く日本企業は、大学受験偏差値競争できめ細かくランキングされた大学群の中で上位大学の卒業生を優先的に採用しているのは確かです。そして採用した若手人材を個別の企業内研修プログラムで再教育し、企業内適応人材として育成していくのが長年の慣習として定着しています。 つまり多くの日本企業は新卒人材採用に際し、本人の大学での成績を重視せず、どの大学の、どの学部を卒業したかを重視します。つまり、事実上、大学受験時の成績(偏差値)が人材採用の決め手になっています。だからこそ、多くの若者は大学受験に血道を上げるわけです。さらに最も成績のよい若者は、自己の能力の限界を試すため、適性度外視で医学部を目指すわけです。 上記、黒川先生によれば、東大理科3類に合格した若者は、自分では日本一の頭脳であると思い込んでいるが、日本の最優秀人材の集団であるはずの東大医学部付属病院のレベルは国際的に高いかというと、それほどでもないとのことです。 確かに大学受験勉強での高成績とイノベーション能力は別物でしょう。イノベーション能力を見極めるには、その人材のライフステージに応じて、様々な関門にて挑戦させていくしか手はありません。



6.イノベーションに向いた組織構造とは:日米いかに違うか

 さて、筆者は、黒川先生(東大医学部名誉教授で元UCLA医学部教授、UCLA:カリフォルニア大学ロサンゼルス校)と同じく日本の組織と米国の組織を両方体験しています。イノベーション人材の発掘と育成の観点から、日米の組織構造を経験的に比較すると、産官学にかかわらず、そのもっとも大きな違いは、日本組織は入口規制構造であり、米国組織は出口規制構造である点にあります。入口規制構造とは、組織構成員として認めるまで関門を厳しくするが、いったん組織構成員に仲間入りできたら、仲間内では既得権益を満喫できる排他的構造を言います。一方、出口規制構造とは、組織の入口の間口は比較的開放的であり、挑戦者は拒まないで、機会均等に誰でも挑戦させてくれますが、組織に属した後も、仲間内の既得権益は与えられないので、多くの場合、厳しい競争が避けられません。上記、黒川先生は、東大医学部付属病院とUCLA系病院を比較して、同じ大学系病院でありながら、その違いがいかに大きいか、近著(注3)で強調されています。東大病院の場合、18歳前後で東大理!)に合格した時点で、その若者に既得権益が与えられ、終生、既得権益に守られることになります。この点こそ、東大医学部が最難関である秘密でしょう。その代わり組織への金銭的寄与度の高低は、報酬(給与)にそれほど反映されません。なぜなら、既得権益者集団は待遇格差の拡大による組織内結束力の崩壊をなにより危惧するからです。一方、UCLA系病院では、教授といえども、おのれの報酬分は自分で稼がなくてはならず、日本のように決まった月給が与えられることはないそうです。そのため、組織の売上や収入に寄与しない組織構成員は

地位の高低にかかわらず、雇用契約が打ち切られ、空いたポストに外部、内部から新たな挑戦者が殺到することが繰り返されます。出口規制構造では組織での地位が高いほど、その地位の維持が厳しくなる傾向にあります。なぜなら、組織への金銭的寄与度に応じて地位(責任と権限が伴う)が決まるからです。その結果、報酬の格差は組織寄与度によって無限に拡大していく傾向が生じます。黒川先生によれば、東大病院に比べて、UCLA系病院の方が大学系病院として完全に優れているとは、いちがいに言い切れないものの、非常に質の高い人材(プロフェッショナル)の育成に関しては、東大病院(日本型入口規制組織:筆者註)よりUCLA系病院(米国型出口規制組織:筆者註)が優れるのではないかと述べておられます。日米組織を両体験した筆者も同感です。ただ、入口規制を全力で突破して、いったん組織内で地位を得た人間(シニア)にとっては、日本型の入口規制組織は一種の天国であるといえます。



注1:OECDのScience, Technology and Industry Scoreboardについては、木嶋豊[2004]『日

本のイノベーション能力と新技術事業化の方策』日本政策投資銀行、新産業創造部にて紹介

されている。

注2:内閣府のプロジェクト:イノベーション25

http://www.cao.go.jp/innovation/index.html


注3:黒川清[2007]『大学病院革命』日経BP社



山本尚利(ヤマモトヒサトシ)

hisa_yamamoto@mug.biglobe.ne.jp


http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/melma.htm


http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/magazine-menus.htm
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