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山本尚利氏コラムから

ベンチャー革命2007年10月8日


                           山本尚利


タイトル: 日経新聞:ものづくりキャンペーン転向か


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1.ものづくり信仰論の挫折


 2007年10月8日付け日経新聞の経営の視点に、「ものづくり信仰」脱却の時というコラム(編集委員:小柳建彦氏)が載っています。同じ日の同紙に、日経ビジネス(日経BP)の広告が載っていますが、ここにも、ものづくり脱却的特集(「ものづくり大国」ニッポン幻想を捨てよ!)が組まれています。日経新聞系の日経BPは「日経ものづくり」という雑誌を発行しているし、日経産業新聞もものづくり企業中心に構成されています。その他、同系統の日刊工業新聞もものづくり企業関係者を購読対象に構成されています。産経新聞系の日本工業新聞は、フジサンケイビジネスアイと名称変更されて、すでに「脱ものづくり」を志向しているようにみえます。


 筆者は80年代後半から一貫して、ものづくり脱却論(ただし、ものづくり否定論ではない)を唱えてきました。21世紀日本は脱工業化社会を迎えているとみなせますので、当然の主張でしょう。筆者の「脱ものづくり」論とMOT(技術経営)教育の関連投稿記事は(注1)から(注11)に示すとおりです。


 ところで(注6)によれば、2004年8月時点の日経新聞はものづくり復興運動の急先鋒であったことがわかります。


 2007年10月の現時点において、日経新聞の「ものづくり立国キャンペーン」におけるスタンスは大きく変更されたのか、それとも、社内で議論が分かれているのかはまだ定かではありません。


 さて、上記の日経コラムによれば、小柳氏が「ものづくり信仰」脱却論を唱えるきっかけとなったのは、千葉幕張メッセで今年10月に開催された電子機器展示会CEATECジャパンと、米国ラスベガスで毎年1月に開催される国際ハイテク展示会CESの方向性があまりに違っているという印象を、同氏が強く抱いたことによります。


 なぜ、CEATECとCESでこのような乖離が生じているか、その原因は筆者にはクリーヤーに見えています。世界のハイテク企業は、脱工業化社会を前提にした技術戦略を模索しているのに対し、日本のものづくり企業に限って、工業化社会の技術戦略に固執しているということです。このことは(注1)、(注5)、(注11)の拙稿記事中心に繰り返し持論展開しています。


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2.日本のハイテク企業は「脱ものづくり」をあきらめた?


 ところで日本のハイテク系ものづくり企業はこれまで、「脱ものづくり」に挑戦してこなかったでしょうか。そんなことはありません。2001年、松下電器は中村邦夫社長時代に「超・製造業」という経営戦略を打ち出したことがあります。日本のハイテク企業の中で、「脱ものづくり」にもっとも熱心であったのはソニーです。松下電器はソニーの後追いをしようとしたことがあります。ここで、決して誤解してならないことは、日本のものづくり企業のうち、とりわけハイテク系日本企業は米国モデル企業を見習って、90年代から「脱ものづくり」の願望を密かに抱いていたのは確かです。たとえば日本のIT企業のモデルであったIBMが90年代、ルイ・ガースナー時代、大胆な経営戦略転換を図り、ものづくり企業(ソフトよりハード重視)からソリューション企業(ハードよりソフト重視)に見事に変身を遂げたのですが、日本のIT企業の経営者は今でも、IBMの変身に強く影響されていることは確かです。


 にもかかわらず、2007年のCEATECで、日本のIT企業は、相変わらず横並びでフラットパネルテレビ技術体系を前面に押し出しているのはなぜでしょう。筆者の読みでは、90年代、日本のIT企業は日米ものづくり企業の技術経営ベンチマーキングを行い、「脱ものづくり」では米国コンペティターに到底、歯が立たないことを悟ったのではないでしょうか。その結果が、2007年のCEATECジャパンだったということです。さらに始末が悪いことに、職人芸的ものづくりに徹したことが奏功して、近年、産業景気が回復してしまったのです。そこで、日本のIT企業経営者は「脱ものづくり」をあきらめて、ハード一本やりの職人芸的ものづくりに徹したことは正解(結果オーライ)だったと自画自賛している可能性すらあります。


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3.21世紀日本のものづくり立国キャンペーンの功罪


 90年代半ば以降、インターネット普及に比例して米国シリコンバレー中心に全米でハイテク企業が台頭してきました。21世紀になってハイテクベンチャー主導型の新事業創造において日本企業は米国新興企業に歯が立たないことが明らかになったのです。当時、構造不況に苦しんでいた日本製造業の経営者にとって、産官学共同路線のものづくり立国キャンペーンは「溺れる者は藁をも掴む」ことわざではありませんが、一抹の救い(自己正当化)となったのは事実です。そして日本製造業のものづくり回帰がいっそう強まりました。超・製造業戦略を掲げていた松下電器は、リストラが一巡するや真っ先にものづくり企業に回帰してしまいました。他の日本企業も大同小異でした。この一連のものづくり立国キャンペーンとMOT(技術経営)ブームはほぼ同時に到来しています。新たに設置されたMOT専門職大学院は、ものづくり立国に不可欠の人材教育システムとみなされていました。


 人間とは元来、弱い動物であり、行き詰ったとき、誰かに、無理しなくて良いのだよと、耳元で囁かれたら、ひとたまりもありません。たちまち、安易な道を選んでしまいます。この結果、上記、小柳氏が、今日、指摘するとおりとなったわけです。この責任の一端は、小柳氏の所属する日経新聞にもあると思います。今頃、脱ものづくりを唱えてもすでに手遅れの感があることは否めません。


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4.米国覇権主義者の高笑いが聞こえる


 今日の日本のハイテク企業は、ものづくり立国キャンペーンで自己満足している間に、米国コンペティターから大きく後れを取ってしまいました。国家技術戦略を専門とする産官学の米国覇権主義者が、しめしめうまくいったと陰で高笑いしている情景が目に浮かびます。ジャパンハンドラーのひとり、エズラ・ボーゲル、ハーバード大名誉教授の著作「ジャパン・アズ・ナンバーワン」(1979年)に代表されるように、戦後の日本企業の技術経営力の台頭に脅威を抱いた米国覇権主義者の対日攻略の長期戦略の第一歩は「ほめ殺し」作戦でした。日本の品質マネジメント(TQM)は世界一だと、長いことおだてられてきました。その延長線上に、今日のものづくり立国キャンペーンが存在するわけです。米国覇権主義者は日本の一部のものづくり経営の研究者をおだてあげて、日本にものづくり至上主義を蔓延させることにまんまと成功したのです。そして米国覇権主義者からみて、ハイテク系先進技術領域(覇権技術体系)からはずれる自動車(普及型燃焼エンジン車)産業、すなわち軍事・航空宇宙系ハイテクから棚卸しされたセコハン技術体系と、重厚長大型重化学産業、一般消費財産業などの伝統的な成熟技術体系に、日本製造業を封じ込めることに成功しました。たとえば、日本のIT企業の代表格、東芝が原子力プラント事業を再強化することは、彼らにとって許容範囲なのです。


 一方、21世紀日本でものづくり立国キャンペーンが盛んになるにつれて、米国覇権主義者にとって覇権技術領域である半導体産業の先進技術分野では、不思議なことに、日本企業がどんどん追いやられていったことは記憶に新しいところです。


 さて日本の技術経営(MOT)の研究・教育に関して、おもしろい「ねじれ現象」がみられます。それは東京大学に存在します。東大の経済学部にはものづくり経営(伝統的MOT)の研究拠点があります。ところが、東大工学系大学院に新たに設置された技術経営戦略専攻は、どちらかといえばハイテク系の先進型MOTとなっています。さらにおもしろいことに、東大経済学部はものづくり経営の研究をしている傍らで、シュンペーターのイノベーション理論の研究が行われています。これも、実におもしろい現象です。本来ならば、シュンペーター理論の研究を行う学部が先進型MOTを研究するのが自然です。


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5.米国覇権主義者による対日ハラスメントという視点


 安富歩・本條晴一郎[2007]『ハラスメントは連鎖する』光文社新書によれば、ハラスメントとは、「人格に対する攻撃」と「人格に対する攻撃に気がついてはいけないという命令」という二つのメッセージの合わせ技であると定義できるそうです。このハラスメント論を日米関係に適用してみると、戦後の米国覇権主義者のうちジャパンハンドラーが日本国民に対して行ってきた行為はハラスメントそのものととらえることができるような気がします。たとえば、ジャパンハンドラー(加害者)は戦後日本のハイテク企業(被害者)が、米国の覇権技術分野において米国のコンペティターを追い抜くことが絶対にないようにあらゆる攻略を仕掛けてきました(注12)。ハラスメント論では、このジャパンハンドラーの対日攻略は、日本企業にも日本国民にも気づかれてはならないのです。そこで、彼らは「ほめ殺し」作戦をとってきたということです。そしてわれわれはまんまと嵌められたということです。


 この意味で、日本のハイテク企業の技術経営者は、ハラスメント論など非技術的学問を修得しないと国際競争に勝ち残れないといえそうです。


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注1:ベンチャー革命No.029『日本大企業の経営者は工業化社会の遺物か』2002年12月1日


http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr029.htm
 


注2:ベンチャー革命No.040『日本勢の競争力はなぜ低下したか』2003年7月17日


http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr040.htm
 


注3:ベンチャー革命No.067『日本におけるMOT(技術経営)教育の行方』2004年3月28日


http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr067.htm
 


注4:ベンチャー革命No.087『MOT論争の二項対立激化の予感』2004年6月16日


http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr087.htm
 


注5:ベンチャー革命No.097『ものつくり論にもの申す』2004年7月22日


http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr097.htm
 


注6:ベンチャー革命No.109『メイドインジャパン復興はめでたいことか』2004年8月20日


http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr109.htm
 


注7:ベンチャー革命No.130『日本のMOTはブームで終わるか』2004年11月28日


http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr130.htm
 


注8:ベンチャー革命No.137『MOTと成果主義』2005年1月3日


http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr137.htm
 


注9:ベンチャー革命No.138『日本におけるMOTのルーツ』2005年1月4日


http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr138.htm
 


注10:ベンチャー革命No.147『ぐちゃぐちゃになったMOT教育コンセプト』2005年2月9日


http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr147.htm
 


注11:ベンチャー革命No.191『ものづくり優良企業ほど日本を滅ぼす?』2006年5月4日


http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr191.htm
 


注12:山本尚利[2003]『日米技術覇権戦争』光文社


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山本尚利(ヤマモトヒサトシ)


hisa_yamamoto@mug.biglobe.ne.jp
 


http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/melma.htm
 


http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/magazine-menus.htm
 




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