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山本尚利氏コラムから

ベンチャー革命2008217


                           山本尚利


タイトル: 東芝のHD-DVD撤退:織り込み済みのシナリオ



1.東芝のHD-DVDからの早期撤退


2008217日付け新聞各紙一面トップにて、東芝のHD-DVD(高精細の次世代DVD技術体系)事業からの撤退が大々的に報じられました。その前日、ウォルマートがBD(ブルーレイ・ディスク)方式DVD機種(ソニー、パナソニック陣営)販売1本化に踏み切ったと報じられており、東芝の撤退はある程度、予想できました。別途、数日前のマスコミ報道によれば、専門家筋は東芝の早期撤退を期待していたそうです。なぜなら、敗色濃いHD-DVDに東芝がいつまでも拘泥するのは好ましくない。それより、一刻も早く、戦略転換して、東芝は原子力発電やフラッシュメモリーなどの強み分野へ研究開発投資を集中させるべきというのが専門家筋の一致した見方のようです。東芝もこの考えを受け入れ、HD-DVDからの早期撤退に踏み切ったということでしょう。



2.DVD技術の変遷


 DVD技術に関して、一般には日本メーカーが世界最先端を走っているように理解されていますが、大元の技術は米国発のDVIDigital Video Interactive)であり、1980年代の半ばに、米国家電ブランドRCAのデビッドサーノフ研究所(現在のSRIサーノフ研究センター)にて試作品が完成していました。筆者は1987年当時、SRIインターナショナルに所属しており、DVI90分ビデオを観た記憶があります。ちなみに当時、インテルがDVI事業分野への参入を狙っていました。


 当時のマルチメディア世界市場は、DVI開発の前に、同じくデビッドサーノフ研で開発されたアナログビデオの全盛時代で、その量産技術主導権は完全に日本メーカーに握られていました。そしてソニーのベータ方式とビクターのVHS方式が熾烈な規格競争を展開しました。アナログビデオ技術を開発した米国RCAは量産品ベースのビデオ規格競争からはずれており、次世代のデジタルビデオの開発に特化していました。2008年の今日、何の因縁か、デジタルビデオでまたも、日本メーカー間の規格競争が繰り広げられています。アナログビデオの規格競争の主導権を日本に獲られた米国関係者の日本メーカーに対する怨念はわれわれの想像を超えるのです。今回の次世代DVD規格競争には、彼らの意思が大きく関わっています。



3.パスデペンデンスの研究からの教訓


 日本主導だったアナログビデオの規格競争を横目に、90年代米国ではパスデペンデンス(Path Dependence、経路依存)の研究が行われるようになりました。パスデペンデンスとは、ある製品に、競合的で互換性のない複数の基本技術が開発された場合、先に規格標準化された基本技術の製品が市場を席巻するという法則です。この法則の特徴は、純技術的に競争優位に立つ基本技術が規格標準化されるとは限らないというものです。そしてあらゆる手段を用いてパスデペンデンス覇権をとった基本技術がデファクト・スタンダードとして世界市場の主流となります。技術は絶えず進歩しますから、あとから優れた基本技術を開発しても、いったん規格標準化された基本技術は容易に置換されず、その規格標準化基本技術の制約条件の下で、新製品の技術開発競争が闘われることになります。アナログビデオはVHSが世界標準となり、ソニーのベータは敗退していますが、ソニーはパスデペンデンスの法則に気づくのが遅れ、ベータから撤退してソニー製品をVHS規格に変更にするのに、10数年もかかったといわれています。この教訓を生かして、今回、東芝はいち早く、HD-DVDからの撤退を決めたということです。



4.東芝の敗因


次世代DVD規格の競争に関して、全世界の関係企業(DVDハード・メーカー、コンテンツ開発企業、大手マルチメディア企業、大手流通企業など)がパスデペンデンスの法則を理解した上で、自社の戦略を決定しているわけです。今回、東芝の敗因は、マルチメディア大手のタイムワーナーの子会社ワーナーブラザーズ映画がHD-DVD支持からBD支持に寝返り、流通大手のウォルマートがBD機種を支持する意思決定したからだといわれています。この裏には、ソニーのCEOハワード・ストリンガー氏の活躍(米国大手の説得)が効いたという見方もあります。HD-DVDBDも青紫色レーザー(短波長)を使用しており、技術的細部では一長一短があり、両者極めて拮抗していると思われます。どちらが規格標準の覇権を取るかは、単に技術的優劣では決まらないのです。この競争の背後には、米国覇権主義者の対日戦略上の思惑が存在しているでしょう。



5.DVD技術覇権競争を巡る米国覇権主義者の対日戦略とは


 米国覇権主義者は、次世代DVDのハード技術に関して、日本メーカー同士の標準化競争を特別に許したと思います。なぜ許したか。それは、DVDハード技術は単にコンデュイット(Conduit、器)にすぎず、コンテンツ主導権を彼らはしっかり確保しているからです。彼らにとって、マルチメディア市場はコンテンツ(彼らの覇権領域)が重要であり、コンデュイット(彼らの覇権領域ではない)はどうでもよいのでしょう。コンピュータ・ソフトウェアのOSや通信ネットワークのプロトコルなど、彼らにとって国益上の覇権技術の国際標準化の場合は絶対に、日本に主導権を渡しません(注1)。もし彼らの覇権技術体系の国際標準化に日本陣営が挑戦したら、あらゆる手段を駆使して、潰しにかかってきます。たとえば、万能細胞作成技術は生物兵器技術に直結する広義の軍事的覇権技術の典型です(注2)。この分野の関係者は十分、注意が必要です。さて今回の次世代DVD技術覇権競争を円形闘技場(アリーナ)にたとえれば、彼らは観客(ステークホルダー)で、日本メーカーは単に闘技者(プレイヤー)です。今回の闘技ゲームで彼らは、ソニー陣営に軍配を挙げたということです。今回のゲームでは、昔のアナログビデオ規格競争の失敗に懲りて、勝敗ジャッジの権限を完全に彼らが握ったとみえます。



6.次世代DVD技術標準競争でなぜ、ソニーが勝ったか


今回なぜ、米国覇権主義者はソニーBDを勝たしたのでしょうか。その理由を筆者なりに、推測してみます。(1)技術的には若干、ソニーのBDの方が有利にみえた。メモリー容量がBD50ギガ、HD30ギガと大きな差がある。(2)東芝に比べて、ソニーの方が、圧倒的に米国化(Americanization)が進んでいる日本企業である。ソニーCEOのハワード・ストリンガー氏は米国覇権主義者からジャパンハンドリングに関して何らかのミッションを与えられた人物であるとみられる。(3)東芝には米国覇権主義者の虎の子、WH(ウェスティングハウス)の原子力プラント事業を売ってやった(注3)のだから、今回は降りろ。(4)特定の優良日本企業(彼らにとって脅威の対象)に技術覇権を集中させない。ソニーはマルチメディア、東芝は原子力、三菱重工は防衛、トヨタは車という風に単純化された分断統治方式を彼らは好む。結局、次世代DVD技術覇権でソニーが勝つか、東芝が勝つか、すべて彼らの采配で決まるということです。


ソニーの経営陣は無論のこと、東芝の経営陣も、日本企業(彼らにとって脅威となる優良日本企業)を手玉に取る米国覇権主義者の考え方は十分、理解しているでしょう。東芝の経営陣にとって、今回のHD-DVD撤退シナリオはすでに織り込み済みであり、ある意味で予定通りの発表だったということです。



注1:山本尚利[2003]『日米技術覇権戦争』光文社


注2:ベンチャー革命No.186『日本の万能細胞研究:甘くない米国覇権主義者』20071127


http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr249.htm


注3:ベンチャー革命No.186『東芝のWH買収:高い買い物か』200629


http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/mvr186.htm



山本尚利(ヤマモトヒサトシ)


hisa_yamamoto@mug.biglobe.ne.jp


http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/melma.htm


http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/1386/magazine-menus.htm


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